Text by Hajime Oishi (大石始) Photo by cherry chill will(sole)
ランキン・タクシーとピーター・バラカン。長年の音楽愛に支えられた発言と活動により、多くのミュージック・ラヴァーから熱烈な信頼を得ている両者は、80年代からシンパシーを寄せ合う関係でもあった。今年4月に出た最新作『RUFF GUIDE TO…RANKIN TAXI』のアナログ盤でのリリースを控えているランキン・タクシー。そして、アナログ盤だけをかけるラジオ番組『アナログ特区』(FMヨコハマ)のパーソナリティーを務めるピーター・バラカン。そんな2人によるスペシャル対談をお届けしよう。
●お2人が初めてお会いしたのはいつ頃なんですか。
ランキン・タクシー(以下、R):覚えてないなあ……。
ピーター・バラカン(以下、P):僕がM-On TVで「PBS」というテレビ番組を持ってたときに出てもらったこともあるし、ラジオのゲストに呼んでくれたこともあるよね。FM802の番組(『Natty Jamaica』)。
R:それも2000年ごろだったと思うな。
P:だから、案外後なんですよ。でも、ランキンさんの一番最初のアルバム(89年の『火事だあ』)を鷲巣(功/当時のランキンのマネージャー兼プロデューサー。現・首都圏河内音頭推進協議会議長)さんから渡された段階でブッ飛んだんです。特に“誰にも見えない、匂いもない”。僕が日本に来たのは74年で、その前の時代のことは知らないけど、社会的な意識を反映したああいう音楽をやる人は日本にいなかったと思う。
●じゃあ、まずはランキンさんの楽曲が持つ政治的メッセージの部分で……。
P:(質問を遮って)僕にとっての『政治』というのは誰にも分からないことを踏ん反りかえって難しい言葉で話す嫌味な親父たちのこと。僕が言ってるのはみんなの日常生活に深く関わることで、そういうことについて話すのは当たり前だと思ってるんですよ。チェルノブイリの原発事故が起きたのは86年で、あの曲(“誰にも見えない、匂いもない”)が出たのはその3年後だよね?
R:そうですね、はい。
P:あの当時、原発事故に関する情報はメディアにもほとんど出てこなかった。そういうときにあの曲を聴いて、『こんなことをやってる人がいるんだ!』と思ってビックリした。しかもね、ユーモアがあって笑いながら真剣に聴かせてくれた。こういう表現は西洋にもあまりないですよ。
R:私はフランク・ザッパの影響だと思ってますけどね。リリックが全部分かるわけじゃないけど、彼は皮肉や笑いを入れるじゃない?レゲエにもそういう皮肉はたくさん入ってるし。
P:そうか……フランク・ザッパは意外だったな。初期のほうが好き?
R:そうですね。『What’s the ugliest part of your body~』とかね(フランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションの68年作『We’re Only In It For The Money』収録曲、“What’s The Ugliest Part Of Your Body?”)。あのあたりを聴いて『格好いいなあ!』と思ってたんです。
P:ランキンさんのアルバムは出るたびに聴かせてもらっていたんです。“信ずる者は…”とか“役人天国”、“ロック・ザ・スクール”も好きでしたね。どの曲もラジオでバンバン流れたらいいんだけど。
R:当時テレビで歌ったこともあるけど、やっぱり(検閲の)チェックは入ってましたね。
●メディアでどう発言していくか、どう歌っていくか。お2人はそういったものとも戦い続けてきたわけですよね。
P:戦うというか、どこか諦めながら続けてきたというか。
R:ブツかってハネ返される、その繰り返しですよね(笑)。
●ただ、実際にお会いしていなかった80~90年代でもお互いへのシンパシーはあった、と。
P:少なくとも僕にはありました。
R:私にもありましたよ、もちろん。
●で、今回はレコードをテーマとした対談ということで、お2人に思い入れのあるレコードを3枚ずつ持ってきていただきました。ランキンさんは非レゲエ、ピーターさんはレゲエのみという縛りで。ランキンさんの一枚目は?
R:じゃあ、まずは中学生のときに買ったこれを(65年にロンドン・レコーズから出たローリング・ストーンズの編集盤『Vol.2』。)。日本盤なので、キース・リチャーズが『ケイス・リチャーズ』って書いてありますね(笑)。“Under The Boardwalk”(オリジナルはドリフターズの64年曲)やってるんだよ?
P:僕が生まれて初めて聴いた“Under The Boardwalk”、ドリフターズじゃなくてストーンズだったの(笑)。
R:そうなんだ!(笑)“Time Is On My Side”も入ってるね。
P:これは当時買ったの?
R:そうそう、中学生のとき。(リリースが)65年だから、中学校2年のときかな。
●ピーターさんの一枚目はなんでしょうか。
P:ウェイラーズの『Catch A Fire』。僕が初めて聴いたレゲエのレコードですね。その前にデズモンド・デッカーの“007”とか“Israelites”はラジオで聴いてたんですけど、スキンヘッズという恐ろしい存在のため、ジャマイカの音楽に距離を置いている時期があったんですね。そんなとき、レコード店で一緒に働いていたジャマイカ系イギリス人がある日、『お前に聴かせたいレコードがあるんだ』といって出たばかりの『Catch A Fire』を聴かせてくれたんですね。
●どうでした?
P:かけた瞬間にブッ飛んだ。あの重いベースとゆっくりしたリズム!
R:(プロデューサーである)クリス・ブラックウェルの指示で、ギターがオーヴァーダブされてるよね。
P:それもすごく格好よかった。あの音じゃないと、当時レゲエのことをほとんど知らないイギリスのロック・ファンは見向きもしなかったんじゃないかな。
R:『Catch A Fire』はまた凝ったジャケットでしたね。
P:そうそう、ジッポ型の。あれもびっくりした。ただ……何よりもあの音ですよ。人生で初めてあんな音に出くわしたんですから。